夜の繁華街の裏路地を入ると人気の無い寂れたテナントビルがある。 その1フロアから明かりがこぼれていた。 中には数名の人影が見えた。 「えー、幻想闘争主要メンバーによる反省会はじめます」 福本が全体を見回しながら言う。 和室のフロアを利用して、ちゃぶ台に鍋と、冬の定番メニューだった。 それを囲み、福本、原田、榎本、響子の4人がいる。 「あの、私。いろいろな理由から鍋とか食べれないんですけど?」 福本の開会宣言を無視するように響子が呟く。 口の問題だけでなく、元が猫舌という理由もあって熱いものを食べれない。 「安心しろ、食べるのは俺だけだ」 原田はドヤ顔で言う。 榎本、響子は気にすることなく、沈黙を続ける。 「おいおい、話聞けよ。とりあえず、自己紹介からやってもらうか」 福本は手をパンパンと叩いて、場を仕切りなおした。 どうせ誰も言い出さないだろう、と思い自ら口を開く。 「俺は福本洋太だ。日本政府の対人外監視局の指揮官を務めている。非公認組織だが、各省庁などからかなりの支援されている。そういった支援をもらえるように俺は普段は各省庁とのパイプを繋ぐことが主な仕事だな」 「へー、お前普段はそんなことしてたのか」 原田はおたまを使って、汁をすくい、それを具にかけながら言った。 鍋を食す準備が着々と進められていた。 「貴様・・・。何年俺と一緒にいたのかと・・・。まぁいい、次は原田お前だ」 「チッ」 あからさまに舌打ちした原田。 同時に福本からの鋭い視線を感じ、大人しく話しを始める。 「原田広明だ。いろんなとこに同じような名前の奴が登場するが、全くの別人だ。福本と同じ組織に所属してる。主に妖怪退治だとか、現場での力仕事をやっている。ちなみに、元自衛官で中央即応隊に所属したこともある」 「なるほど、それでアレだけの戦闘能力がな」 榎本が呟いた。 一人で缶ビールを飲んでいる。 「ちなみに、先祖は陰陽師に関わる神社とかにいたとかで、それに関係する品があったりするが、数珠は『娘』事件の時に力をなくして、二度と使えなくなってるからな。ただ、先祖が妖怪に預けた刀はいまだに健在みたいだけど」 付け加えるようにして、原田は言った。 「確かにな、あの数珠はしっかりと修行を積んだ術師が使っていればかなりの強さを発揮しただろうに」 榎本がさらに付け加える。 嫌味を言われていると原田は分かったが、あえて無視することにした。 「では、次は俺だな」 榎本が手に持った缶ビールをちゃぶ台に置く。 「榎本だ。隙間妖怪で、空間を自由に操れる。人間の世界ってのはいいもので、ありとあらゆる娯楽がある。それを楽しむためにいろいろなところで金を得て生活している状況だな」 榎本はにやりとしながら、左腕を原田たちに見えるように首元まで上げる。 手首には、時計がしてあり、素人目にも高価なものだというのが分かった。 こいつ、どこまで嫌味なんだ、原田と福本は思った。 二人は国に雇われているとはいえ、非公式な組織であるため、給与は普通の国家公務員よりも格段に少ない。 そのため、かなりギリギリの生活をしている。 榎本のしている時計など、一生買うことはできないだろう。 そして、響子の着るコートも良く見るとブランド物だったりする。 妖怪のくせになんでいい生活してるんだ、と二人は泣きそうになっていた。 「空間を操るっていう発想は、明らかに空から始まる小説の影響受けてるとしかいえないな。ついでにこのカリスマ性は、同じように境界を操っている女妖怪の影響だろうと思う」 榎本は引き続き語っていた。 おいこら、何言ってるこの男、と福本は思った。 神のみぞ知る事情的なものをぽんぽんと口に出していた。 「じゃ、次に」 場の流れを変えようと福本が言う。 響子が自分の番と話始める。 「響子です。口裂け女です。最初は汚職政治家や官僚たちの証拠隠滅のために利用されてました。榎本に助けられてからはずっと一緒に行動しています。これからもずっと一緒です」 妖怪ですら女気があるというのに・・・福本は愕然としていた。 原田も同様だが、化物じみた女はいやだなと冷静に考えていた。 「ちなみに口裂けてるのがコンプレックスです。整形外科手術で治るみたいなんですけど、治したら刃物スキルが格段に下がります。なんか、このコンプレックスで人間離れした妖力を発揮できるみたいです」 いつになく饒舌に話す響子。 普段は全然しゃべらないため、かなり珍しいと全員思っていた。 「ちなみに、猫舌設定は今考えました。あと、なんで常にコートを着ているかというと」 響子はそう言うと突如立ち上がる。 そして、その場でコートを広げてみせた。 中には様々な刃物がぎっしりとぶら下がっている。 「刺身包丁とかも持ってるのか」 福本は包丁に目がいった。 原田はついでに疑問に思ったことを聞いた。 「あれ?あのでっかい鎌とかはどこに直してるんだ?」 「鎌は組み立て式」 そう言うと、くるりと回って背中の部分を見せる。 柄の部分が二本と鎌の刃先がぶら下がっていた。 「これを素早く抜き取って、その場で瞬時に組み立てるの」 響子は話ながら、いつもの手順でその場で組み立てた。 瞬く間に組み立てていた。 「よくまぁ、そんなに刃物を集めたもんだ・・・」 原田は呆れか感心かどちらか分からない息を吐く。 鍋はいい具合に煮込まれていた。 福本はそれに気づくと、お椀を全員に配った。 原田はお椀を受け取ると、真っ先に自分の分を注ぎ始めた。 その次に響子が、榎本の分を注いでいた。 福本は最後に自分の分を注ぐ。 皆、沈黙して、食べだす。 「そういえば、俺って最初一人だけで妖怪退治するって設定だったんだよな」 突如として、原田が発言する。 しかも、神レベルの話。 「あれだろ?悪魔関係の映画見て、エクソシスト(物理)的な話を作りたいみたいな」 頷きながら付け足す福本。 「それに元はかなり暗い感じの作風にするはずだったらしい」 「刺したり、刺されたりのレベルだろ」 その話を聞きながら、響子も入ってくる。 「私ももっと狂ったような人格で、本来ならゲスト扱いで1作目で死ぬ予定だったらしいですよ」 「どうやら、話が進むうちに情が移ったようだな」 榎本は具を口に運びながら言う。 その発言に対して福本は問う。 「誰の情が?」 「知らん」 日ごろの愚痴に近い内容で、鍋会は進んでいく。 ある程度食べつくされて、もう締めに近づいていく。 「とりあえず、ゲストの話をするか?」 原田が会話のネタがなくなったのか、突如言い出す。 それに乗ったのか福本が言う。 「ゲストねー、最初は妖怪たちが多かったな。天狗が特に」 「人物紹介の中に半漁人ってあったけど、最初の話出てないからな」と原田。 「だな。考えるにお前の外部調査シーンを考えるのが億劫になったんだろうな」 「ふーん、誰の?」 「神的な存在の人」 榎本は二人の話を聞きながら、自分も印象に残るゲストがいたか考えた。 「そういえば、佐野って最近見なくなったが、何しているんだ?」 「あんたが、一番関わり深いだろ。俺達が分かる分けないだろ」 榎本の質問に抗議する原田。 榎本は続ける。 「奴は奴で、敵に回すと厄介でな。知能派でありながら戦闘力も高いという」 「そうなのか」と原田。 「あいつの力はぬらりひょんの知識が乗り移った本のおかげだろ?あれがなければ、耐久力のある人間って感じだろ」と福本。 「ほう、奴を人間と呼ぶか。俺からするとこっち側の存在だと思っていたが。お前から見るとそっち側に見えるのか」 榎本は面白そうに言う。 「不老不死ってだけで妖怪っていえるかどうか微妙だからな」と福本。 響子が少しずつ皿をまとめだした。 それに気づかぬかのように原田は言う。 「ロシアの面子に関しては特に言うことはないな」 「あれはもう、完全に趣味だろ。あの人の」と福本。 「だろうな。完全に自分の世界入ってたわ」 付け加えるように原田が言う。 すでに皆の中に締めようという空気が流れ始める。 「これから、まだいろいろと事件は起こるのかね」 なんとなく福本はそうこぼした。 「まぁ、あるだろうな。神はまだ先の未来を想像しているみたいだ」 榎本は残ったビールを飲みながら言った。 「想像して、創造するか。この辺、日本語って面白いよな」 唐突に原田が言った。 無視して、片づけを続ける響子。 「神の中では自分の作った世界観すべては共通する一つのものだったりするみたいだしな」 福本も発言する。 原田はそれを聞いて思ったことを言う。 「宇宙でドンパチやってるのも?」 「あぁ、今の世界時間から凄まじい時間が経った先の未来だったりするらしい。そういう噂だ」 「へー、じゃあ、首相官邸で何かやばいことが起きてるのも?」 「ある程度はリアルタイムだろうかな。ちょっとズレはあるだろうが」 そういうと、福本はテレビに視線を向ける。 狼煙町でのタンカー事故について報道されていた。 また、別のニュースでは柳田首相の退陣に関する特番が流れている。 「宴もたけなわってとこか」 福本は立ち上がり、そういった。 「そんじゃ、解散か」 原田はひざをポンと叩き言う。 榎本たちも黙って立ち上がる。 「俺達は先に上がるぞ。片付けは任せていいか?」と榎本 「あぁ、気にするな。あとはやっておく」と福本 「そうか、じゃあな」 そう言うと、榎本と響子は姿を消した。 消す直前に響子はぺこりとお辞儀していった。 「片付けはまた明日やるから、俺らはとりあえず休もう」 福本は原田に言った。 元より片付ける気のなかった原田。 「じゃあ、先に風呂入って下で寝てるぞー」 「あぁ、好きにしろ」 福本はコップに少し残ったビールを飲み干した。 そして、誰に話しかけるわけでもなく、声を出す。 「それじゃ、まだどこかで会いましょう」 手に持ったコップを流しまで持っていく福本。 「誰に話しかけたんだ?」 原田は不思議そうに福本に尋ねた。 福本は微笑むと首をかしげた。 「さぁね」 |