3度目の世界大戦を終えた人類は、ついに世界を統一させた。 だが、大戦の傷は大きく、地球上の資源はいつ底をついてもおかしくない状況となっていた。 人類はその活路として、新資源の確保を目的とする宇宙開発をスタートする。 そんな折、宇宙空間を瞬時に移動するためにワームホールを利用する航行技術の開発が進められた。 理論は完璧といえる状態だったが、実験は未だに躊躇われた。 ワームホールを開くことで、何が起こるかわからなかったためだ。 しかし、軍の圧力もあり、いよいよ実験が行われた。 開発者たちの不安を余所にワームホールは無事に開かれた。 そして、ワームホールの先には、地球とよく似た惑星が存在した。 発見者たちは、別の地球としてバイオスフィア5と名づけた。 バイオスフィア5は大気こそ地球と同じであったが、なぜか動植物が存在していなかった。 さらに地上の全てが荒野であった。 すぐさま、バイオスフィア5の調査が進められ、地下に大量の化石燃料が存在することがわかった。 従来の石油などの代替となる燃料であり、”Infinity Oil”(IO)と名づけられ、直ちに利用が開始された。 さらに、鉱物も鉄よりも硬く、加工もしやすいものが見つかった。 鉄の後継として、”Second Iron”(Sアイアン)と名づけられ、研究が進められた。 人類はバイオスフィア5を資源確保のための惑星として、着々と開発を進めていった。 そんな中、原因不明の襲撃事件が発生する。 直ちに事件解明が行われるが、その最中にも次々に襲撃事件が発生する。 人類は軍の派遣を行い、各所に配置することにした。 そして、あの日がやってきた。 長距離偵察隊の報告が突如として入った。 第一報は、「未確認生命体を発見す」だった。 続いて交戦許可を求める通信が入り、その後、音信は途絶えた。 直ちに部隊がいた場所に偵察隊が急行した。 そこには人間以外の生物が大量に存在していた。 爬虫類のような生物であり、人間と共通なのは二足歩行を行っていることくらいだった。 これが、人類が始めて地球外生命体と接触した運命の日だった。 最悪の形での接触であった。 危機感を持った政府は直ちに軍隊を派遣。 バイオスフィア5において大規模な軍隊の編成が行われた。 地球外生命体は完全に人類に対して敵対行為をしてきた。 軍はそれらの生命体の掃討作戦を実施する。 しかし、事態は最悪な方向へと進み始めた。 地球外生命体は一気に攻勢に出てきたのだ。 とてつもない物量であり、人類はバイオスフィア5における勢力を徐々に失っていった。 当初は、バイオスフィア5の放棄が考えられていたが、資源を確保しなければならないため、なんとしてもバイオスフィア5の確保が優先された。 そして、この時から長きに亘る人類とエイリアンとの戦争が幕を上げた。 砂埃の舞う荒野をひたすらに走る兵士達の姿があった。 皆、疲れ切った顔で酷く汚れていた。 「後退!後退だ!」 中尉の徽章をつけた男が腕を上げつつ、周囲の者に大声で伝える。 すると、その間近で爆発が起こる。 周囲にいた者は爆風で飛ばされ、中尉も飛ばされていた。 全身を打った痛みを感じつつも、自分の体が無事か見回した。 中尉は何事もなっていないと胸をなでおろすや、近くにいた通信兵をひっぱり倒した。 「前哨基地に連絡だ!直ちに救援をよこすように!」 無言で頷いた通信兵は背負った通信機を用意し、中尉の指示通りの文言を受話器に告げる。 だが、返ってくるのは、ノイズばかりである。 相手と通信できないのか、それとも無視されているのか、今の彼らにはわかることではなかった。 「くそ……、自分達で逃げるしかないのか」 中尉は立ち上がり、ついでに倒した通信兵も引張り起こした。 荒野を兵士たちと走る。 後ろから人の声とは違う咆哮が聞こえた。 果たして、このような状況になった部隊はどれだけあったのだろう、と中尉は思った。 最後の抵抗を決心し、後ろを振り返り銃撃を開始する。 様々な咆哮が入り混じった荒野はいつも以上に荒んでいた。 各地に展開した第2師団の多くの部隊は数日前より通信不能となっていた。 BS5軍司令部には各方面の前哨基地から第2師団の生存部隊についての情報が伝わっている頃だった。 すでに、後方拠点からは損失した兵力を補うために、予備戦力として温存されていた部隊が続々と前線へと移動を開始していた。 投入される部隊は第1師団と第3師団の戦力である。 第2師団は予備戦力を基軸として再編成が行われるため、まだ戦線復帰は難しい状況だった。 第3歩兵大隊第2中隊第3小隊に所属するレックス・オブライアン一等兵もまた、前線へと向かう兵士の一人だった。 前哨基地へとレックスの部隊は向かっていた。 彼らは輸送用のトラックに乗って移動していた。 乗り心地の酷い荷台で雑談している兵士もいれば、沈黙している兵士もいた。 レックスも沈黙する兵士の一人だった。 どのくらいトラックに揺られているのかも、分からなくなっていた。 徐々にジェットエンジン音や他のトラックのエンジン音が聞こえてきた。 最後尾に座っていたレックスは荷台から顔を出し、周囲の様子を見た。 空を数機のVTOLが飛行していた。 数からして、相当の兵力・物資が運ばれてるのだろうとレックスは思った。 そうこう考えているうちにトラックが停止した。 「よし、降りろ」 トラックの外から手招きをしつつ、ゲラーシー・ローゴフ軍曹が指示を出してきた。 皆、素早くトラックから降り、ローゴフが指示する集合地点へと駆け足で向かう。 先に小隊長のクライス・リース少尉がすでに待っていた。 その周りに別のトラックに乗っていた兵士たちが取り囲んでいる。 「遅いぞ。すぐに整列しろ!」 リースは集まってくる兵たちに対し大きな態度を見せていた。 ローゴフはその態度に関しては何も言わず、また兵士に対しても何も言わなかった。 ある程度、集合が終ると、リースは指示を出し始める。 「我々、第1師団は後退を開始した第2師団に変わり前線を維持するために投入された。その中で、我が第3小隊の役割は、この前哨基地周辺の哨戒任務を行うことだ」 内容としては基地を拠点として、周辺のパトロールをするというものだ。 しかし、前線でのパトロールということは遭遇戦となる可能性が高くなる。 釣りのエサような役目をしろと言われてるのと同じだった。 「早速、哨戒命令が出ている。20分の休憩後、再び車両に戻れ。任務を開始する」 リースはその後に解散と付け加え、話を終える。 皆、散り散りになって行く中、レックスは車両の近くへと戻り、適当な段差を見つけて腰掛けた。 少し休み、任務に挑もうとしていた。 すると、誰かが近寄ってくる。 「なんだ?疲れ切った顔をして」 レックスが顔を上げると、そこには同じ部隊の兵士、ジーノ・ベルトリーニがいた。 ジーノはレックスの横に座る。 「限られた時間で体を休めようとしてるんだ」 レックスは面倒そうに返す。 ジーノはそれを気にする様子もなく、会話を続ける。 「ここに来るまでたいしたことしてないだろ?」 「移動だけでも、十分に疲労する」 「それはそうだが、そんなに死んだような顔して休む必要もないだろう?」 「今後のことを考えたらそんな表情になるだろ」 レックスは思った。 ジーノはこれからの任務に何も不満や不安を覚えないのかと。 普通の人間であれば、こんな辺境の地にやられて、いつ襲われるかもわからない状況ならば気持ちも沈むものである。 にも関わらず、ジーノはそのような様子はなかった。 元から神経が図太いのか、おかしくなっているのか、どちらかだろうとレックスは思った。 進展のない会話をやっている間に時間が過ぎたようだった。 お互い、それじゃ、と別れてそれぞれの車両へと戻った。 30人前後の兵士たちは、車列を作るトラックに揺られ、前線を移動する。 トラック3台に指揮官用の装甲車1台で編成される。 指示されたポイントは前哨基地から意外に離れているようだった。 時間など計っていないが、体感時間は長いように思えた。 「このポイントを基点に哨戒を開始するぞ」 リースがジープの車上から言う。 3班に人員を分けて、野営準備をする者と野営地付近の護衛をする者、そして、哨戒にでる者を決めた。 リースが野営地に残る2班を指揮し、ゲラーシーが哨戒班の指揮をすることになった。 この小隊にはこの二人くらいしかまともな指揮をできる者がいなかった。 伍長もいるが、最近昇格した者で、兵士感覚であることは否めなかった。 哨戒班は直ちに準備を開始する。 レックスは哨戒班に振り分けられた。 準備を進めるレックスにジーノが近寄ってくる。 ジーノは野営地を護衛する班だった。 「初っ端からいいくじ運だな」 「どうせ、前線だ。哨戒に出ようとここに残ろうと危険は変わらないよ」 「まぁ、気を付けていけよ」 「お前もな」 レックスは言い終わると、移動を始めようとするメンバーたちに続いた。 また、ジーノも自分の準備を開始する。 10名程度の人数で列を作る。 一定の距離を開けて、周囲を見渡しながら歩いていく。 会話は全然なかった。 皆、ゲラーシーの後に続くように歩いていた。 ゲラーシーは時折、地図を確認しながら、チェックを付けていった。 どうやら、偵察を終えた位置をチェックしているようだった。 しばらく歩いていくと、車両の残骸が見えてきた。 過去の戦闘で破壊されたものだろう。 残骸の数は少なくはない。 この付近も過去に敵が出現した箇所であることは判断できた。 「この一帯は注意が必要か」 ゲラーシーは誰に言うわけでもなく呟いた。 その残骸の一帯を重点的に調べようとしたが、敵の出現を確認することはできなかった。 ゲラーシーは時計を確認すると、全員に戻るよう指示した。 この日は何も起きずに無事生還した。 野営地に戻る頃にはあたりは暗くなっていた。 殆どが休憩に入っている。 火や電灯などの明かりは消され、かなり薄暗い。 明日いっぱいまでこの付近の偵察を行い前哨基地に戻る予定だとレックスは聞いた。 見張り役のローテーションを確認し、レックスも仮眠を取ることにした。 どのくらい睡眠に入ったか覚えていない。 あたりが少し騒がしいことに気づき目が覚める。 自分の番になったのかと、思ったが、そういうわけでもないようだった。 レックスは起き上がり、あたりを見た。 数人の兵士がひそひそと話し、遠くを確認しているようだった。 何事かと思い、レックスはその集団に声をかける。 「どうした?」 「あ、あぁ、見張りをしてた奴が、向こうに動く何かを見たらしい。ただ、今俺達が見た時には何もなくてな……」 「小隊長には?」 「まだ伝えていない、見間違いなら大事にすることもないだろうし。エイリアンだったらすでに襲って来てるはずだろ?」 「そうかもしれないが……念のためだ、軍曹に俺が伝えておこう」 レックスはゲラーシーの元へと移動しようとした。 その時、別の見張りが双眼鏡を持ったまま叫んだ。 「まずい!アイスタンドだ!敵に見つかったぞ!」 その声に反応し、多くの兵が一気に起きた。 リースやゲラーシーも同じだ。 叫んだ兵の隣にいた者が銃撃する。 見事に命中し、エイリアンは死んだようだった。 しかし、問題はこれからだった。 「敵に位置を知られたか……」 偵察を行うエイリアンに存在がばれてしまった。 皆、すでに敵が自分達のことに気づいたと思っていた。 「周囲を警戒しろ!全員戦闘準備!」 リースが全員に指示する。 リースもまた、銃を取り、戦列に加わる。 問題はこの暗闇の中、敵をどう発見するかだった。 皆、銃撃の構えをしている中で、通信兵の声だけが聞こえていた。 「小隊長。照明弾を打ちますか?」 ゲラーシーは進言する。 リースとしては、明かりを極力出したくなかった。 その分、敵に居場所を教えることになる。 現状はすでに位置を知られてる可能性があった。 ならば、使っても問題はないか、とリースの中で結論が出た。 「使おう。一帯の様子を知る必要もあるしな」 ゲラーシーはすぐさま、ハンドシグナルを近くの兵士に行った。 その兵は頷くと、照明弾を上空へと打ち上げる。 3方向に打ち上げ、一帯を照らせるようにした。 その瞬間、皆愕然とした。 距離はあるにしろ、すでにエイリアンたちが周囲に展開している状態だった。 エイリアンたちは姿を照らされると同時に、咆哮しながら走りだした。 「目標は任意!撃ち方はじめ!」 リースは咆哮を聞いたと同時に指示を出していた。 兵士達も恐怖を覚えていたため、直ちに射撃を開始する。 レックスもこの状況には驚きを隠せない。 とにかく今出来ることは、敵を撃つこと。 狙いを定めた敵を撃っては次の標的にと、流れ作業のように射撃を行う。 今はまだ、一方的に射撃できるが、いずれ敵も射程内にこちらを捉えるはずだ。 案の定、敵の銃撃がはじまった。 同時に数名の兵士が倒れる。 直ちに衛生兵が駆け寄り、状態を確認し手当てを始める。 遮蔽物に隠れながら皆撃っているが、わずかに身を乗り出している時に撃たれてしまう。 撃って隠れるまでの動作をいかに早くするかだけでなく、その短時間で敵を定め撃つ必要があった。 定期的に照明弾が打ち上げられ、辺りを照らす。 ただ、敵との距離は視認せずともエイリアンたちの咆哮で判断できた。 まずい、とレックスは思った。 あまりにも声が近い。 もうすぐそこまで敵が来ている。 そう思っていると、遠くで何かが放たれる音がした。 何だ、と思った瞬間には後方でトラックが爆発していた。 敵がグレネードを撃ってきたのだ。 近くにいた兵士たちは爆風に飛ばされる。 そのトラックの破片もレックスがいる方へと飛来する。 咄嗟に体が回避しようと動いていた。 体は無事だったが、破片によって遮蔽物が破壊され身を隠す場所が殆どなくなっていた。 ただ、先ほどの爆発であたりに煙が立ち昇っているため、それがうまく煙幕となった。 レックスは身を隠す遮蔽物を探す。 その途中、倒れている兵士の一人に目が行く。 「ジーノ!」 思わず駆け寄っていた。 ジーノは先ほどの爆発で吹き飛ばされたようだった。 目だった外傷はない。 ただ、全身を強く打ったことから意識が朦朧としているようだった。 ジーノを担いで、爆発したトラックの残骸に身を隠す。 多くの隊員が死傷し、壊滅的な状態だった。 リースやゲラーシーも一応、無事のようだが、すでに命令が全体に伝わっていなかった。 通信兵が必死に無線に何か言っているが、応答はないようだった。 1個小隊くらい上層部は簡単に見捨てるだろうとレックスは思った。 死に対する恐怖がいつしか込み上げてくるのに気づいた。 視界が歪む中、空に轟音が響いた。 聞き覚えのあるジェットエンジンの音だ。 見上げるとVTOLが飛来していた。 さらに、装備されているロケット砲が放たれる。 周辺にいたエイリアンたちはあっという間に一掃される。 だが、それでも後続の敵がぞろぞろとなだれ込んでくる。 他のVTOLが着陸する。 ドアが開き、中からパワードスーツを着た兵士が現れた。 その一人は首元の徽章から少佐だとわかった。 「ここの指揮官は?」 その少佐は、近くの兵士に話しかける。 声が聞こえたのか、リースは中佐のもとに駆け寄った。 「クライド・リース少尉です。ここの指揮は自分がとっています」 リースは敬礼しながら、挨拶をした。 「私は、第11混成連隊第1重装歩兵大隊長、ボリス・ラビノヴィチ・コンドラコフ少佐だ。基地への移動中に敵に囲まれている友軍の信号に気づいてここまできた」 コンドラコフは周囲を見渡した。 そこには多くの兵の死体と爆発した車両の残骸が散らばっていた。 「どうやら、すでに戦闘継続は不可能な状態に思える。我々のVTOLで共に撤退したほうがいいと思うが?」 「私達は撤退する手段がなくなっています。残存兵力を回収してもらえるのは助かります」 「よし、直ちに機体に乗せろ」 リースは小隊メンバーにVTOLに乗るよう指示を出した。 リース小隊は10人前後の数まで減っていた。 それでも、コンドラコフの救助により無事帰還することに成功した。 基地へと帰還するVTOLの中、ジーノは意識が戻った。 自分がタンカに乗せられていることに気づき、困惑した表情を見せた。 それにレックスが気づく。 「目が覚めたか?」 「あ、あぁ……。一体、どうなって?」 「安心しろ、無事に帰還中だ」 ジーノは自分たちが無事に戻れることに安堵した。 打ちつけた衝撃でいまだに体は痛む。 その痛みを紛らわそうとジーノはタンカの上で大人しくじっとすることにした。 次へ |